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名古屋地方裁判所 昭和50年(行ウ)22号 判決

名古屋市昭和区曙町三丁目五番地の一

原告

水野天明

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚四番地

被告

昭和税務署長

市川次朗

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

奥野誠享

右被告両名指定代理人

蓑毛荒

北川拓

山本正一

被告昭和税務署長指定代理人

黒内昭

三浦元幸

被告国指定代理人

森下外美雄

横並昌治

森下博

原田正一

宇野力

横山静

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告昭和税務署長が、昭和四九年一月二一日付で原告に対してなした昭和四五年分、同四六年分、同四七年分についての各所得税更正処分を取消す。

2  被告国は、原告に対し、一三〇万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨(但し、請求の趣旨二項中一〇〇万円につき、本案前の抗弁として訴え却下の判決)

第二当事者の主張

(請求原因)

一  本件課税の経緯

1 確定申告

原告は、昭和四五年分ないし同四七年分(以下「本件係争年分」という。)の所得税について、同四五年分は同四六年三月一一日に、同四六年分は同四七年三月一四日に、同四七年分は同四八年三月三日に、それぞれ別表一課税処分表の「確定申告額」欄記載のとおりの金額による確定申告(白色申告)を被告昭和税務署長(以下「被告署長」という。)になした。

2 更正及び加算税の賦課決定

ところが、被告署長は、国税通則法二四条の規定により別表一課税処分表の「更正及び賦課決定額」欄記載のとおり、本件係争各年分の総所得金額及び所得税額を更正するとともに、同法六五条による過少申告加算税を同法三二条の規定により賦課決定し(以下右更正及び賦課決定を「本件各更正処分等」という。)、昭和四九年一月二一日付で、それぞれ原告に通知した。

3 異議申立及び決定

原告は、本件各更正処分等を不服として、昭和四九年一月三〇日、被告署長に対して異議申立をしたが、被告署長は原告の異議申立は理由がないとして棄却し、昭和四九年四月二七日付で、その旨原告に通知した。

4 審査請求および裁決

原告は、右異議決定を不服として、昭和四九年五月一三日、国税不服審判所長に対し、審査請求をなしたが、同所長は原告の右請求は理由がないとして棄却し、昭和五〇年六月三日付で、その旨原告に通知した。

二  本件各更正処分等の違法性

しかしながら、本件各更正処分等は、昭和税務署係官の後記守秘義務違反に対してなした原告の抗議に対する税務当局の報復行為であって、原告に所得がないにもかかわらず、その所得を捏造してなされた違法なものであるから、その取消を求める。

三  慰藉料請求等

1 昭和税務署係官市川修一(以下「市川」という。)は、原告が、昭和四六年三月一一日、被告署長に対して提出した昭和四五年分の所得税確定申告書(甲第一号証の一)の添付書類(甲第一号証の二)及び原告に対する調査により、原告が訴外宇佐美由夫(以下「宇佐美」という。)から後記原告所有にかかる物件との交換契約によって取得した宇佐美所有にかかる名古屋市昭和区車田町一丁目三九番の一の土地及び建物(以下(ロ)の物件という。)を訴外高木喜代美外一名に五四〇万円で売渡したこと及び右交換により宇佐美が取得した原告所有にかかる同市同区曙町二丁目五番九の土地及び建物(以下(イ)の物件という。)の原告取得価額が五〇〇万円であることを知った(市川のなした右調査は、宇佐美に対し、右交換契約による譲渡所得税を課する目的でなされた)。そして、市川は調査により判明した右事実を職務上守秘すべき義務があるにもかかわらず、昭和四六年七月ごろ、宇佐美に対し、原告が(ロ)の物件を五四〇万円で他に売却した事実及び(イ)の物件の原告取得価額が五〇〇万円である事実を告知した。しかし、これらの事実は(ロ)の物件が元宇佐美所有であるとは言え、宇佐美にとっては直接のかかわりのないことがらであり、これらの事実を宇佐美に告知した市川の所為は、税務職員としての守秘義務に違反していることは明らかである。

原告は、昭和四六年七月ごろ、市川に対し、右守秘義務違反の所為につき抗議し、ついで、被告署長に対しても右顛末を述べ、謝罪等の善処を求めたが、被告署長はこれに応じなかった。

原告は、市川の右守秘義務違反の所為により、交換契約の当事者である宇佐美との間の信頼関係を捏損された。

2 のみならず、昭和税務署係官市川、竹内、名古屋国税局係官川合普、井上昇らは、原告の前記守秘義務違反の抗議に対する報復のためと、加えて、不当な本件更正処分等を正当化する目的を以って、原告の取引先銀行に、原告の預貯金の内容を照会したり、その余の取引関係者に対し、取引資料の提供等を強要したり、原告との取引内容を捏造させたりし、さらに、原告の取引関係者に対して修正申告を強要するなどしたため、原告は右各関係者から取引をことわられ、信用を失った。

以上1.2.の昭和税務署係官らの所為のため原告の受けた精神的苦痛は甚大である。

3 原告は、被告署長の違法な本件各更正処分により、本件係争各年分の本税、賦課税合計五四万八、三〇〇円と、これに対する市県民税二八万二、七二〇円、以上の合計八三万一、〇二〇円の支払を余儀なくされ、そのため、原告は右と同額の損害を蒙った。

4 以上の昭和税務署係官の所為は、公権力の行使に当る公務員の故意ないし過失に基づくものであるから、原告は被告国に対し、国家賠償法第一条第一項に基づき1.2.に対する慰藉料として一〇〇万円と、3に対する損害賠償として三〇万円、合計一三〇万円の支払を求める。

(被告らの本案前の抗弁及び訴訟手続の分離審判の申立)

原告の訴え中被告国に対する国家賠償法に基づく一〇〇万円の慰藉料請求部分は、行訴法一三条にいう関連請求に当たらないので不適法な訴えとして却下されるべきであり、もしくは、取消訴訟と分離して審理されるべきである。

その理由を詳述すると次のとおりである。

1  原告主張にかかる昭和税務署係官市川の守秘義務違反とは、(イ)(ロ)の各物件の交換契約の当事者の一方である宇佐美の譲渡所得に対する税務調査における過程においてなされたものであることは認めるが、原告の右主張自体からして、右守秘義務違反を理由とする被告国に対する慰藉料請求部分は、本件課税処分等取消訴訟と関連性を有しないことが明らかである。

2  原告が守秘義務違反の所為と主張する事実関係の真相は次のとおりである。即ち、原告主張の原告と宇佐美間の(イ)(ロ)物件の交換譲渡を含め、宇佐美は、自已の昭和四五年分の確定申告をなしたことから、被告署長は、右申告にかかる宇佐美所有の(ロ)物件の譲渡所得等を調査したところ、過少申告であることが判明したので、宇佐美に対し修正申告の指導をした。

右修正申告の指導は、(ロ)物件が、右交換譲渡の直後に、原告において訴外高木外一名に代金五四〇円で売却されていたことから(右事実は、高木らに対する課税のための調査で明らかになった)、右取引価格が、宇佐美の右交換譲渡における(ロ)物件の価格認定上唯一の取引実例であったため、右取引価格を示す資料(売買当事者を明示せずに、取引価格のみを示したのみのもの)を作成し、これを宇佐美に示してなしたのである。

以上のとおり、被告署長が(ロ)物件の取引価格が五四〇万円であることを知ったのは、原告の昭和四五年分の確定申告書によるものではない(右確定申告書には、原告主張の明細書の添付はなされていなかった)、のみならず、右事実を参考資料として宇佐美に対し修正申告の指導をしたことと、原告に対する課税処分のための税務調査とは、何らの関連性がない。

3  従って、本件更正処分等取消の訴えと、右慰藉料請求の訴えとは、紛争の基礎となるべき、法律上、事実上の原因を異にし、かつ、両訴は、争点及び攻撃防禦方法にも共通性がなく、右両訴を併合審理するときは、いたずらに審理を複雑化するものであるから、いずれの点から見ても、右慰藉料請求の訴えは、行訴法一三条の関連請求に当らず、取消訴訟と併合提起することは訴されず、不適法として却下さるべきであり、しからずとしても、訴訟手続を分離の上審理さるべきである。

(請求原因に対する認否及び被告らの主張)

一  請求原因に対する認否

第一項の事実は認めるが、第二、第三項の事実及び主張は、後記のとおり争う。

二  本件各更正処分等の適法性

被告署長のなした調査によれば、原告の本件各係争年分の各総所得金額、申告納税額及び過少申告加算税額は、いずれも別表二「所得税額等計算表」記載のとおりであるから、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分は適法である。これを詳述すれば、次のとおりである。

(昭和四五年分)

1  総所得金額 四〇二万三、九二三円

別表二「所得税額等計算表」の昭和四五年分欄のとおり、不動産所得の金額と営業所得の金額とを合計したものである。

(一) 不動産所得 一五八万八、四三一円

別表三「不動産所得金額計算表」の昭和四五年分欄記載のとおりである。

(1) 総収入金額 一八〇万〇、四〇〇円

別表四「不動産所得の収入金額明細表」の昭和四五年分欄及び別表四の附表1「昭和四五年分月別賃貸料収入明細表」各記載のとおりである。

なお、右のうち、原告の否認している賃貸借契約、同契約期間については、次のとおりである。

(ア) 訴外(有)福田商会については、調査事績復命書(乙第一号証)の調査結果により、訴外横山己代子については、同人の名古屋国税不服審判所係官に対する供述書(乙第八号証)により、訴外林宇多子については、同人の名古屋国税不服審判所係官に対する供述等(乙第一一号証ないし第一三号証)により、いずれも原告との間で賃貸借契約が存在していたことは明らかである。

(イ) 訴外永田輝見の賃貸借の期間については、同人に対する名古屋国税局係官の聴取書(乙第九号証)により昭和四五年一月から同四七年七月までであったことが明らかである。

(2) 必要経費 二一万一、九六九円

別表五「公租公課明細表」の昭和四五年分欄及び別表六「減価償却費計算明細表」の昭和四五年分欄の各合計額を合算したもので、その明細は、次のとおりである。

公租公課 一四万九、九七四円

評価証明書(甲第五〇号証の一ないし二九)に記載された課税標準額(建物については評価額)から算出された固定資産税及び都市計画税の合計額である(その算式は別表一二の(一)のとおり)。

なお、次に述べる各不動産の公租公課については、不動産所得に係る必要経費としての公租公課と認めることができない。

(ア) 別表一〇の1の土地は、本件係争年当時、賃貸の用に供されておらず、また、同土地上には原告自身が居住している家屋及び原告が事業の用(営業所得の店舗)に供している店舗が存在しているのみであるから、不動産賃貸の用に供された資産とは認められないので、右土地の公租公課は、必要経費としての公租公課に算入されない。

(イ) 別表一〇の4及び7の土地については、本件係争各年当時、賃貸の用に供されておらず、また、右各土地上には家屋は存在していない。従って、右各土地については不動産賃貸の用に供された資産とは認められないので、右各土地の公租公課は必要経費としての公租公課に算入されない。

(ウ) 別表一〇の8の家屋については、原告が事業の用(営業所得)に供している店舗であり、また、同表の9の家屋については、原告自身が居住している居宅であるから、両家屋は不動産賃貸の用に供された資産とは認められない。従って、両家屋の公租公課は必要経費としての公租公課に算入されない。

(エ) 別表一〇の5及び6の土地については、両土地の合計面積の三分の一は原告の実兄である訴外水野一男が無償で使用しているので、両土地の三分の一は不動産賃貸の用に供されている資産には当たらない。従って、右両地の公租公課は、両地の固定資産税額及び都市計画税の合計額から右水野一男の使用部分である三分の一控除すべきであり、右控除分は、必要経費としての公租公課に算入されない。

減価償却費 六万一、九九五円

別表一〇の813.14.及び15.の建物については、いずれも法定耐用年数の二四年を経過しており、すでに償却済の資産である。

また、別表一〇の8及び9の建物については、前記(2)の(ウ)で述べたとおり、賃貸の用に供した資産とは認められない。

従って、右8.9.13.14.15.の家屋については減価償却の対象とならない。

別表一〇の10.11.16.(別表五の5.6.7)の建物についての減価償却費は、次に述べるとおり推計により、別表六「減価償却費計算明細表」の昭和四五年分欄のとおり算定した。

別表六の「建築年月」欄及び「所有名義欄」については、名古屋市所轄区役所の家屋補充課税台帳(乙第四四号証、第四五号証)により、同表の「取得価額」欄については、原告提出の評価証明書の評価額によったものである。

別表六の「耐用年数」欄については、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一(乙第四六号証)によったものである。

(二) 営業所得金額 二四三万五、四九二円

別表七「昭和四五年分営業所得金額計算明細表」の「被告主張額」欄記載のとおりである。

(1) 売上金額 一、八五八万六、〇〇〇円

なお、右金額のうち、名古屋市昭和区(現在は天白区)天白町大字平針字長田一〇〇〇の三の宅地(別表七(1))の売買価額は、四七三万円が正しい(乙第二一号証)。

(2) 売上原価 一、五四四万八、八五八円

なお、右金額のうち、名古屋市昭和区車田町一丁目三九番の一の宅地(六八・〇九平方メートル別表七の(7))の取得価額は、四〇〇万円が正しい(乙第二二号証)。

(3) 支払手数料 三三万二、〇〇〇円(原告申告額)

(4) 売買手数料収入 一四万五、〇〇〇円(原告申告額)

(5) 必要経費 五一万四、六五〇円(原告申告額)

2  所得控除額 五八万五、〇〇〇円(原告申告額)

(昭和四六年分)

1  総所得金額 二三四万二、七七四円

別表二「所得税額等計算表」の昭和四六年分欄のとおり、不動産所得の金額、営業所得の金額及び利子所得の金額を合計したものである。

(一) 不動産所得 一八七万二、八五一円

別表三「不動産所得の金額計算表」の昭和四六年分欄記載のとおり、総収入金額から必要経費を差引いたものである。

(1) 総収入金額 二一一万〇、六〇〇円

内訳は、別表四「不動産所得の収入金額明細表」の昭和四六年分欄及び同表の附表2「昭和四六年分月別賃貸料収入明細表」各記載のとおりである。

なお、右のうち、原告の否認している賃貸借契約、同期間、保証金収入については、次のとおりである。

(ア) 訴外(有)福田商会、同横山己代子、同林宇多子と原告との間で賃貸借が存在していたことは前記昭和四五年分において述べたとおりである。

(イ) 永田輝見の賃貸借期間が昭和四五年一月から同四七年七月までであったことは前述のとおりである。

(ウ) 訴外伊藤英俊と原告との間で賃貸借が存在したことは、名古屋国税局係官の同訴外人の姉である阪井千賀子に対する聴取書(乙第一四号証)により明らかである。

(エ) 訴外玉置六郎(以下「玉置」という)、同秋田寿男(以下「秋田」という。)との賃貸借契約に伴う保証金等各二万円ずつ、計四万円について、昭和四六年分の収入金額と認定した理由は、次のとおりである。

一般に、不動産賃貸に伴い、賃貸人が、敷金保証金等の名目により、賃貸借人から収受する返還を要しない金員が賃貸人の所得を構成することは当然であるが、その内、当該不動産の賃貸期間の経過に応じて返還を要しないこととなる旨の約定がある場合の当該不動産所得の収入金額の収入すべき時期は、当該契約に定められたところによりその返還を要しないこととなった日にその収入する権利の確定をみることになるから、当該日の属する年分の不動産所得として、その総収入金額に算入されるべきものと解するのが合理的である。

これを本件についてみるに、原告が秋田と締結した昭和四五年一〇月二六日付建物賃貸借契約(乙第七号証)の特約条項によると、契約日から一ケ年を経過した場合、保証金二〇万円の一〇パーセントに当たる二万円が返還を要しない保証金となると規定されているので、契約から一ケ年を経過した昭和四六年一〇月二七日に二万円が返還不要となり、昭和四六年分の不動産所得の総収入金額に算入される。

玉置については、賃貸借契約書そのものを確認できなかったが、同人の回答書(乙第六号証)によれば、前記秋田とほぼ同時期に同程度の家賃及び賃借期間で原告と建物賃貸借契約を締結し、その権利金等として右秋田と同額の二〇万円を入居時に原告に支払っており、かつ、右権利金は、退居時に約一〇万円差し引くから、その残額の返還を受けたことが明らかであり、右事情のもとにおいては、右権利金等につき原告と玉置との間の賃貸借契約にも、右秋田と同様の特約条項が存するものと推認するのが相当であるから、秋田と同様に二万円を不動産所得にかかる収入金額に算入したものである。

(2) 必要経費 二三万七、七四九円

別表五「公租公課明細表」及び別表六「減価償却費計算明細表」の昭和四六年分欄の各合計額を合算したものである。その明細は、次のとおりである。

公租公課 一七万五、七五四円

公租公課の算定にあたっては、前記昭和四五年分と同様の方法により計算したものである(その算式は、別表一二の(二)のとおり)。

別表一〇の1の土地については、昭和四五年分同様に必要経費としての公租公課に算入されない。

同表の4及び7の土地については、昭和四五年分と同様に必要経費としての公租公課に算入されない。

同表の8及び9の建物については、昭和四五年分と同様に必要経費としての公費公課に算入されない。

同表の5及び6の土地については、昭和四五年分と同様に公租公課の三分の一は、必要経費としての公租公課に算入されない。

(3) 減価償却費 六万一、九九五円

昭和四五年分と同様に別表一〇の10.11.16.(別表五の5.6.7)の建物については、推計により別表六「減価償却計算明細表」の昭和四六年分欄のとおり算定し、別表一〇の8.9.13.14.15.の家屋が減価償却の対象とならないことは先に述べたとおりである。

(二) 営業所得金額 四四万一、〇〇二円

別表八「昭和四六年分営業所得金額計算明細表」の「被告主張額」欄のとおりである。その明細は、次のとおりである。

(1) 売上金額 九六七万円

(ア) 別表八の1の(1)の売上金額は、二九六万円である(乙第二三号証、甲第三一号証)。

(イ) 同表の1の(2)については、昭和四五年分収支明細書(乙第一九号証)及び営業明細書(乙第二四号証の二)に基づいて売上金額を推計した。

すなわち、右宅地は同所同番の一の田一、四四七平方メートルから分筆したものであり、右宅地の売上原価は一平方メートル当たり一万〇、一五六円である(乙第一九号証)ので、これに六六・一二平方メートルを乗じて計算すると六七万一、五一四円となる。

従って、この土地の売上金額は、右売上原価の額に営業明細書(乙第二四号証の二)に記載されている売買利益三万八、四八六円を加えた七一万円と推計した。

(ウ) 同表の1の(3)の土地建物の売上金額は六〇〇万円である(買受人稲垣の聴取書、乙第二五号証)。

(2) 売上原価 九〇五万七、五七二円

(ア) 別表八の1の(1)宅地は、同所同番の一の田一、四四七平方メートルから分筆したものであり、分筆前の右田の一平方メートル当りの単価が一万〇、一五六円である(乙第一九号証)ので、前記(1)の土地の売上原価はその面積二六四・四八平方メートルに一平方メートル当たりの単価一万〇、一五六円を乗じた二六八万六、〇五八円である。

(イ) 同表1の(2)の宅地は、1の(1)の宅地と同様に計算すると、六七万一、五一四円となる。

(66.12×10,156=671,514)

(ウ) 同表1の(3)の土地建物の売上原価は、五七〇万円である(売主鈴木、買主原告間の売買契約書、乙第二六号証)。

(3) 売買手数料収入 四五万円

別表八の4記載のとおり。但し、原告申告額の外に名古屋市同区天白町大字平針字高瀬木三五六番の田一、一一七平方メートルを原告が訴外(有)名豊トヨペットサービスに売却するに際し、同社から手数料名義で支払を受けた一〇万円を含む(事績復命書と題する書面、乙第二七号証)。

(4) 支払手数料 一万円

前記三五六番、田、一、一一七平方メートルの売買に際して、原告が訴外小池菊雄に支払った書類作成手数料の一万円(従前の土地所有者で原告に対する売主である小池菊雄に対する聴取書、乙第二八号証)。

(5) 必要経費 六一万一、四二六円(原告申告額)

(三) 利子所得 二万八、九二一円

別紙一三の(一)(二)のとおりで、源泉徴収税額は四、三三六円である。

(四) 所得控除額 六六万四、一〇〇円(原告申告額)

(昭和四七年分)

1  総所得金額 四〇七万〇、八二九円

別表二「所得税額等計算表」の昭和四七年分欄のとおりであり、その明細は、次のとおりである。

(一) 不動産所得金額 一九〇万六、四〇六円

別表三「不動産所得の金額計算表」の昭和四七年分欄のとおり。

(1) 総収入金額 二二四万六、四八六円

内訳は別表四「不動産所得の収入金額明細表」の昭和四七年分欄及び同表の附表3「昭和四七年分月別賃料収入明細表」各記載のとおり。

なお、そのうち、訴外(有)福田商会、同横山己代子、同伊藤英俊と原告との間にそれぞれ賃貸借契約が存在していたことは前述のとおりである。

訴外末日聖徒イエスキリスト教会(以下「教会」という。)の賃貸借の始期は昭和四七年一〇月であり、(事績復命書と題する書面、乙第二号証)その昭和四七年分の収入金額は七万九、〇〇〇円である。

秋田、玉置との賃貸借契約に伴う保証金等各二万円計四万円について、昭和四七年分の収入金額と認定した理由は、昭和四六年分について説示した理由と同じであり、昭和四七年一〇月二七日に返還不要金となったためである。

(2) 必要経費 三四万〇、〇八〇円

別表五「公租公課明細表」及び別表六「減価償却費計算明細表」の昭和四七年分欄の各合計額を合算したものである。

公租公課 二五万三、二五三円

算定にあたっては、昭和四五年分と同様の方法により計算したものである(その算式は別表一二の(三)のとおり)。

別表一〇の1.4.7の土地同8.9の家屋については、昭和四五年分と同様に、必要経費としての公租公課に算入されない。

同表の5及び6の土地については、昭和四五年分と同様に、公租公課の三分の一は必要経費としての公租公課に算入されない。

同表の3の土地及び12の家屋については、原告は当該土地、家屋を昭和四七年三月一七日に取得しているので、同土地及び同家屋の公租公課の一二分の二は必要経費としての公租公課に算入されない。

減価償却費 八万六、八二七円

別表一〇の10.11.12.16.(別表六の5.6.7.8)については昭和四五年分と同様の方法により、推計した。

但し、別表六の8の家屋については、登記簿謄本(乙第四三号証)から明らかなように、昭和三七年三月一七日に所有権取得した家屋であることから、次のとおり推計した。

右家屋は、昭和二一年に建築され(乙第四五号証)、すでに法定耐用年数である二四年(乙第四六号証)を経過した後に原告が取得しているところから、減価償却資産の耐用年数等に関する省令及び通達(乙第四六、四七号証の一、二)に基づき、法定耐用年数である二四年に二〇パーセントを乗じて得た年数である四年を右家屋の耐用年数とみなした。なお、右家屋はその取得年月日が係争年度の中途であったため、月割計算によった。

(二) 営業所得 二一六万四、四二三円

別表九「昭和四七年分営業所得金額計算明細表」の「被告主張額」欄のとおり。

(1) 売上金額 二、三八〇万七、九五〇円 (原告申告額)

(2) 売上原価 二、〇九七万八、六七一円 (原告申告額)

(3) 売渡経費 一万五、八五〇円 (原告申告額)

(4) 売買差益 二八一万三、四二九円 (原告申告額)

(5) 必要経費 六四万九、〇〇六円

その明細は、次のとおりである。

(ア) 電気料金二万〇、〇五六円、上下水道料金五、九六七円、ガス料金二万九、一二二円、電話料金三万六、八八七円(別表九の5(11)(12)(13)(15)のとおり)。

これら項目の支出額は、原告申告額のとおり(但し、ガス料金は四万六、一五九円が正しい、乙第三二号証)であるが、所得税法は、納税者が支出する経費のうち、家事上の経費については、必要経費に算入しないと定めている(同法四五条一項一号)。しかし、家事上の経費が、事実上の経費にも当たると認められるような場合(両者が混在しているような場合)は、家事関連費と称されるが、両者の合理的な区分が困難な場合は、同法施行令九六条一項により、すべて必要経費に算入されないのが原則である。

しかしながら、被告は本訴においては原告に有利にその一部を必要経費と認めることとし、右原告の家事上の経費支出額を総理府統計局昭和四七年家計調査年報一四表の「一世帯当り年間の品目別支出金額、都市階級昭和四七年大都市欄」(乙第三五号証、以下「家計調査年報という。)における右電気料等に対応する品目(費目)の支出額と同額であるとみなし、次表のとおり、原告の必要経費を算定した。

〈省略〉

註 ※は被告署長調査額(乙第三二号証)

(イ) 自動車燃料費 三万六、二八〇円

原告は、出光クレジットカードを利用し、主として訴外出光興産(株)の特約販売店である出光クレジット加盟給油所で給油を受けており、その代金は、昭和四六年二月から同四七年二月までは、三重銀行阿由地支店(現今池支店)水野とし子名義普通預金口座から、同年三月以降は百五銀行御器所支店原告名義普通預金口座から、それぞれ口座振替の方法で、昭和四七年分につき三万六、二八〇円が支払われている(乙第一、二号証)。

(ウ) 事務費 一八万〇、八〇五円(原告申告額)

(エ) 贈答費 〇円

原告は、贈答費として、一二万五、〇〇〇円と申告しているが、原告の営業である宅地建物取引業においては、単発的な取引がほとんどであるから、顧客に対し、物品を贈答する必要性はなく、仮に、物品贈答の費用が生ずるとしても、それは原告が必要経費としている茶菓費五万二、三〇〇円の範囲内で十分賄い得るものであり、このことは、原告作成の昭和四五年分及び同四六年分の各収支計算書(乙第一九号証、第二四号証の二)に贈答費を計上していないことからも窺知できる。

(オ) 自動車修理費 一三万五、〇〇〇円

(カ) 減価償却費 一三万一、五八九円

原告の申告額は、一八万六、〇〇〇円であるが、原告が、昭和四七年度において、宅地建物取引業の用に供した減価償却資産は、小型乗用車(取得価額三五万五、〇〇〇円、乙第三六号証)、複写機(取得価額三二万円、乙第三七号証)、計算機(取得価額五万円、乙第三七号証)、クーラー(取得価額八万円、乙第三七号証)であるから、所得税法四九条一項、同法施行令一二五条一号、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四七年大蔵省令五二号改正後のもの)一条別表一、同省令四条別表一〇、同省令五条別表一一を適用し、原告の昭和四七年分の営業所得にかかる減価償却費は次表のとおり一三万一、五八九円となる。

なお、複写機、計算機、クーラーについては、それらの取得した月が不明なため、原告に有利に各年の始めに取得したものとして計算した。

〈省略〉

(キ) 調査費 〇円

原告は、調査費として二五万二、〇〇〇円を申告しているが、原告が昭和四七年中に売り上げた物件の取得関係からみれば、いずれも原告申告にかかる調査費を必要とするものはない。すなわち、別表九の1の(1)の物件は昭和四六年中に、同(3)の物件は昭和四五年中に、それぞれ原告が取得したものであり、昭和四七年分の営業所得の計算上、右各物件の取得に要した費用はすべて売上原価中に含まれて計算されているところであり、右物件売却に際し、特に新たに当該物件の調査を要する必要は認められないことから、当該調査費の支出はないというべく、同(4)ないし(6)の物件についても、当該物件の売上原価を構成する取得費中に測量費、分筆登記手続費等が含まれているから、当該物件の調査費を必要とする事由は見あたらない。また同(2)の物件は、木造建物であり、仮に、調査に要した費用があったとしても、登記簿閲覧等の費用程度のものである。従って、右各物件につき、仮りに、原告主張の調査費の支出が現実になされたとしても、それらは、原告が必要経費として計上している事務費一八万〇、八〇五円の範囲内で充分賄いうるものである。このことは、原告が、昭和四五年分及び同四六年分の収支計算書(乙第一九号証、第二四号証の二)において、特に必要経費として、調査費を申告算定していないことからも窺知できる。

(ク) 自動車税 二万一、〇〇〇円

原告の保有するトヨタカローラ二ドアスタンダードKE四三年式(総排気量一、〇七七リットル)の自動車税は、年額二万一、〇〇〇円である(原告主張額)。

(ケ) 茶菓費 五万二、三〇〇円(原告申告額)

(コ) 事業専従者控除額 〇円

原告は、その妻訴外水野叡子を所得税法八三条(昭和四八年法律第八号による改正前のもの)所定の配偶者控除と同法五七条三項の専従者控除を共に適用して申告しているが、同法第五七条三項の事業専従者については「いずれかの居住者の控除対象配偶者とされる者を除く」と規定されているところから、原告の妻水野叡子については、事業専従者控除を適用することはできない。

(サ) 台風による被害額及び応急復旧費 〇円

原告は、被告署長宛の昭和四九年三月一一日付寄託所と題する書面(甲第一四号証)を根拠に、事業の用に供していた建物について、台風により被害を受けたと主張しているが、右寄託書は事実を確認した上で被害証明をしているものではなく(乙第三八号証、乙第三九号証)また、名古屋地方気象台回答書(乙第四〇号証)によると、原告が台風により建物が被害を受けたと主張する昭和四七年九月二四日及び翌二五日は、天気は晴または曇りで、最大風速は一一・二メートルであったから、建物が被害を受けるような台風はなかったことが明らかである。

原告は、名古屋市千種区内山町一丁目九六番二、木造トタン葺平家建倉庫兼作業場床面積一〇〇平方メートル及び同市昭和区雪見町三丁目五番地、木造平家建波トタン葺倉庫兼作業場兼車庫床面積四〇平方メートルが、昭和四七年九月二五日の台風による被害を受けたとしているが、そのような事実はない。

仮りに、原告主張の右建物に台風による被害があったとしても、昭和四七年頃は、原告の確定申告書(乙第三号証)の記載自体に照らし、原告が「建売り」を業としていたことは認められず、(原告が建売を業としていたのは、昭和四〇年ごろであり、そのころは、右各建物は、建売住宅の作業場として使用されていた)また原告は、災害復旧費等を雑損として計上して申告していることから、右各建物は、事業の用に供していたとは認められない。

仮りに、何らかの被害を受けたとしても、原告主張の被害額及び応急復旧費額五九万円については、何ら具体的な算出根拠も示していないので、原告の主張は失当である。

2  所得控除額 七一万一、〇三六円(原告主張額のとおり、原告申告額より雑損控除四八万二、四一〇円を差引いた額)

三 以上のとおり、原告の本件係争各年分の総所得金額、申告納税額及び過少申告加算税額は、いずれも別表二「所得税額等計算表」記載のとおりであるから、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分等は適法である。

四 原告の被告国に対する国家賠償法に基づく(イ) 慰藉料請求一〇〇万円及び(ロ)本件更正処分等の違法を原因とする損害賠償金三〇万円について。

(イ)の請求については、原告が守秘義務違反と主張する事実関係の真相は、先に述べたとおりであり、昭和税務署係官には、何ら違法な行為はなく、(ロ)の請求については、本件更正処分等が適法である以上、その前提を欠き、いずれも理由がないこと明らかである。

(被告らの主張に対する認否及び原告の再主張)

一  被告ら主張第二項の事実及び主張中原告の争う争点項目と、右についての主張は、次のとおりである。

二  係争各年度の不動産所得について

(一) 不動産総収入金額-別表三の1記載の各金額は、次の理由で否認する。

(1) 不動産所得の対象物件

別表一〇の1ないし16のすべてが該当する。従って、別表一〇の1.4.5.6.7.8.9につき、これに反する被告らの主張(但し、5.6はその一部を否認している)は争う。

(2) 不動産賃貸借契約

(イ) 賃借人 訴外(有)福田商会、同横山己代子、同林宇多子、同伊藤英俊が賃借人であることは否認する。その余の賃借人は、被告ら主張のとおりであることを認める。

(ロ) 賃貸借契約期間

訴外永田輝見の賃貸借期間は、昭和四六年七月一日から同四七年七月一七日までであり、訴外教会のそれは、昭和四七年一一月一日から、同四九年一二月三一日までである。これに反する主張は否認する。

(ハ) 賃貸料収入

訴外(有)福田商会、同横山己代子、同林宇多子、同伊藤英俊についてはその全部、訴外永田については、昭和四五年分及び昭和四六年一月から六月までの分、訴外教会については、昭和四七年一〇月分を否認する。

その余の賃貸料収入は被告ら主張のとおりであることを認める。なお、訴外玉置、同秋田に対する昭和四六、七年度なお、訴外玉置、同秋田に対する昭和四六、七年度における保証金収入各二万円宛計八万円が収入金額となることは否認する。

保証金は、賃貸借契約終了時に賃借人に返還されるべきものであるから、収入金額に算入すべきではない。

従って、別表三の1の係争各年度の総収入金額中、原告が争う部分は、当然差し引かれるべきである。

(二) 別表三の2記載の係争各年度の必要経費額(公租公課、減価償却費)は、次の理由で否認する。

(1) 公租公課 別表五(公租公課明細表)は正確ではない。

別表一〇の1ないし16の各物件の内、4.7.9を除いた各物件に対する係争各年度における公租公課は昭和四五年分一九万〇、九七〇円、昭和四六年分二二万五、九六八円、昭和四七年分三二万三、六一三円であり、その明細は、次表のとおりである。

〈省略〉

(2) 減価償却費

別表一〇の1ないし16の各物件は、不動産であるから減価償却費計上の対象とはならず、この点の被告らの主張は否認する。

(3) 必要経費に算入されるべき項目

(イ) 再建築予蓄費

木造家屋を経済的に良好な状態で賃貸借を遂行するには、一定の耐用年限経過後にその主要部を再建築し、賃貸事業を継続する必要があり、そのための費用を再建築予蓄費という。

右費用の算定方法は、木造建物の耐用年限を三〇年とし、当該建物の再建築費の三〇分の一に相当する金額を毎年計上すべきである。しかし、現在の社会情勢では物価の上昇があるので、建築当初の費用を基準としては将来に対する再建築は不可能であるから、毎年その年度の物価又は建築費を基準として、再建築費を算出するのが最も妥当である。

そして、右再建築費にかかる予蓄費につき、建物一平方メートルあたり、各年度による物価、建築費から算出すると、次のとおりである。

なお、各年度ゐ価額の相異は、昭和四五年度に比較して、同四六年度は物価の変動が少ないため同額とし、同四七年度は、物価、建築費が上昇したため、総理府統計による物価上昇率八・七パーセントを加算したものである。

昭和四五年度 二、三〇〇円

昭和四六年度 二、三〇〇円

昭和四七年度 二、五〇〇円

(ロ) 消耗維持予蓄費

賃貸建物には、水栓用パッキン、建具用戸車、ドア用金具、畳表等消耗年限三年以下の部分、表具類、ビニール製屋根、網戸、ガス台等消耗年限五年以下の部分、建具類、床板等消耗年限一〇年以下の部分、柱、土台等消耗年限一〇年以上の部分があるので、右各部分の消耗を修理し、原状に維持するために要する費用を予蓄する必要があり、これを消耗維持予蓄費という。

消耗維持予蓄費は、建物全体の価額の三〇パーセントに該当する。消耗各部分の耐用年限の平均を八・三年として、その予蓄費は、右消耗部分の価額に一二パーセントを乗じた額がその年度の消耗維持予蓄費である。

係争年度における消耗維持予蓄費は、建物一平方メートルあたりにつき、次のとおりである。

イ 昭和四五年度 二、四八〇円

ロ 同 四六年度 二、四八〇円

ハ 同 四七年度 二、七〇〇円

なお、再建築予蓄費、消耗維持予蓄費の全額は各年分の一平方メートルあたりの単価を別表一一の総床面積に乗じて得た金額で、次のとおりである。

昭和四五年度 四〇〇万九、七九八円

昭和四六年度 四〇〇万九、七九八円

昭和四七年度 四七五万〇、六一六円

以上に述べた公租公課と、再建築予蓄費、消耗維持予蓄費の合計額は、次のとおりである。

昭和四五年分 四二〇万〇、七六八円

昭和四六年分 四二三万五、七六六円

昭和四七年分 五〇七万四、二二九円

(ハ) 訴外林宇多子に対する訴訟費用等

訴外林宇多子は、原告との間に賃貸借契約の存しない者であるが、同人に対する建物明渡訴訟に際し、原告は弁護士の謝礼等三〇万円を支出した外、右訴外人が原告所有建物を毀損したことによる損害は一五〇万円に上ったため、原状回復費に右と同額の金員を支出した(そのうち二七万円は和解により林宇多子が支払った)。以上の支出の外修復による期間の賃料未収入金額を考慮すると昭和四七年度における原告の不動産賃貸業における損失は多額であるが、被告署長が、これらを、必要経費に算入しないのは違法である。

(三) 原告の不動産所得 〇円

以上に述べたところからすれば、原告の不動産所得は、必要経費額が収入額をはるかに上廻り、発生していないことは明らかであり(原告は、昭和四三年、同四四年分の不動産所得について確定申告をする際、昭和四五年、同四六年、同四七年分と同様、申告をしなかったが、昭和税務署調査官に対し、不動産所得の必要経費について、前記原告主張の経費の趣旨を説明し、調査官に納得を求めたところ、右必要経費を認めたので、修正申告又は更正決定がなされたことはなかったのである)。

三  係争各年度の営業所得について。

(昭和四五年分)

(一)  別表七の1の(1)、2の(7)及び6の被告主張金額は否認する。その余は認める。

1 売上金額

別表七の1の(1)の売上金額は四一八万円が正しい。

右物件は、原告が訴外加藤豊時に四一八万円で売却したのであり、乙第二一号証添付の代金を四七三万円とする売買契約書は、右加藤が訴外竹中一らに転売したときに作成されたもので、右契約書の締結には、原告は関与していない。

2 売上原価

別表七の2の(7)の売上原価は五〇〇万円が正しい。

もっとも、右物件について、原告が、所有者訴外辻村明子との間で買受代金を四〇〇万円とする契約書を作成したことはあるが、これは、右訴外人の代理人訴外辻村英吉の指示により形式上作成したものであり、真実は、原告が右英吉との間で、買受代金を五〇〇万円とする契約を締結し、現実に五〇〇万円を支払ったのである(甲第二五号証)。

(二)  従って、営業所得金額は、原告申告額八八万五、四九二円である。

(昭和四六年分)

(一)  別表八中1の(1)(3)、2、3の(8)、4の(11)ないし(13)、6は認め、その余は否認する。

1 売上金額

別表八の1の(2)の物件の売上金額は、七四万円であり(甲第三〇号証)、被告署長主張の七一万円は誤りである。

2 売上原価及び売買差益

別表八の3の(7)(8)(9)の原告申告にかかる売買差益は、同表1の被告署長主張の売上金額(但し(2)は前記のとおり七四万円)から、同被告署長主張の売上原価と、原告の支払った売買手数料((7)(8)については一六万五、〇〇〇円、(9)については四万五、〇〇〇円)合計二一万円(甲第三二号証、第三四号証、第二九号証の二)を差引いて算出したものである。

3 売買手数料

別表八の4の(1)については、原告が、訴外名豊トヨペットサービスからの一〇万円の小切手を受領したことはあるが、これは売買手数料ではない。

すなわち、原告は、昭和四四年九月五日ごろ、同社に対し、昭和区天白町大字平針字高瀬木三五六番、田、一、一一七平方メートルを訴外加藤、小塚らを仲介として売渡したのであるが、その後、同社が登記関係書類(甲第三三号証の一)を紛失したため、右書類の再作成を原告に依頼し、紛失書類の作成と所有権移転登記手続費用として一〇万円の小切手を原告に預託したので、原告は右手続一切を井介人訴外加藤らに委任し、同人らに、右小切手を現金化して支払ったのであり、原告は、何らの利得を得ていない。

4 支払手数料

原告の支払った手数料は、前記のとおり二一万円である。

(二)  従って、昭和四六年分の営業所得金額は一七万一、〇〇二円である。

(昭和四七年分)

(一)  別表九中5の(11)(12)(13)(14)(15)(17)(19)(20)、6及び7は否認し、その余は認める。

1 必要経費

(ア) 電気料金、上下水道料金、ガス料金、電話料金(同表九の(11)(12)(13)(15))これら費用は、すべて必要経費に算入されるべきであり、家事関連費として、その一部を控除すべきではない。

(イ) 自動車燃料費(同表九の5の(14))

被告税務署長主張のとおり原告が訴外出光クレジット加盟給油所で給油を受け、その主張のとおりの代金合計三万六、二八〇円を支払ったことは認めるが、原告は、右販売店以外のガソリンスタンドにおいても給油を受け、現金で、代金支払をしていたのであり、その合計額は、原告主張の五万六、〇〇〇円である。

(ウ) 贈答費(同表九の5の(17))

宅地建物の取引業者である原告は、不動産取引の相手方の信用度に対する調査等を友人、知人に依頼することが多く、その謝礼として、相当額の贈答費用を要するのであり、売主を紹介してくれた者に対する謝礼も必要であるから、原告申告にかかる贈答費一二万五、〇〇〇円は必要経費に算入されるべきである。

(エ) 減価償却費(同表九の5の(19))

被告署長主張の別表中小型乗用車(四三年式トヨタカローラ)の取得価格は、同被告主張の三五万五、〇〇〇円ではなく、四三万円が正しい(甲第四四号証)。

また、減価償却の対象物件は、同被告主張物件の外に、自動車クーラー、建設用機械器具(製材用丸鋸、自動鉋、手押盤、コンクリートミキサー、塗装用コンプレッサー、チェーンブロック、滑車、ロープワイヤー、鋼材切断機、溶接トランス、電動工具、穴堀機等)があり、その取得価額は一〇〇万円以上である。原告は、右事実を昭和税務署調査官訴外松井に対し申述したところ、原告の償却費計上額一八万六、〇〇〇円は、これら物件をも含めて計上されるべき正確な償却費を下廻っていたため、右松井は、原告の右計上額を認容した。右松井の認定そのものには、別段異議はないが、真相は右のとおりであった。

(オ) 調査費用(同表九の5の(20))

被告署長は、昭和四七年中に原告が売上げた物件のみを対象として、右各物件を取得した際の調査費用は売上原価に含まれていると主張しているが、右売上原価の中に、調査費がどれだけ含まれているか、また、具体的な調査内容を明らかにしていない。所得税法三七条所定の必要経費の中には、物件取得の目的でする調査費も含まれているのであり、実際に取得した物件の調査費に限定されるものではない。そして、取得目的のためにする調査は、登記簿閲覧費程度ですむものではない。そして、原告は、山武郡松尾町所在山林二筆(甲第四一号証の一ないし四)につき調査し、実際に調査費を支出しているが、その具体的内容は、営業秘密に属し、明らかにすることはできない。

(カ) 台風による被害額 八万七、五九〇円(総被害額六三万二、〇〇〇円から雑損控除申告分四八万二、四一〇円を差引いた額)

昭和四七年中に生じた台風により、事業用資産に次のような被害を受けた。

名古屋市千種区内山町一丁目九六番地、木造平家建波トタン葺、倉庫兼作業場、床面積一〇〇平方メートル、被害金額四〇万円

同市昭和区雪見町三丁目五番地、木造平家建波トタン葺、倉庫兼作業所、床面積四〇平方メートル、被害額一二万円

同所同番地、木造二階建、建物側面モルタル塗部分、被害金額六万二、〇〇〇円

同市同区曙町三丁目五番地、木造ビニール波板葺、車庫、床面積四六平方メートル、被害金額五万円

右被害金額合計六三万二、〇〇〇円のうち、事業用にかかる部分の被害額は五七万円であるから、事業必要経費は、それだけ増大したことになり、原告が計上した雑損害六三万二、〇〇〇円の内、申告した雑損控除額四八万二、四一〇円を差引いた八万七、五九〇円が必要経費となる。これに反する被告署長の主張は否認する。

2 事業専従者控除(同表九の6)

被告署長主張のとおり、原告の妻については、事業専従者控除を適用できないことは認める。

しかし、原告の申告した事業専従者控除は、事業上必要のため、不定期に従事した臨時雇(アルバイト)に対し支払った費用であって、これらの業務者についての支払は、その性質上、領収書の受領が困難であるため、事業専従者控除としたもので、本来は事業遂行の必要経費であるから控除さるべきものである。

(二)  従って、昭和四七年分の営業所得金額は一四九万五、九〇四円となる。

四 昭和四六年分の利子所得金額

別表一三のとおりであることは認めるが、源泉所得税四、三三六円を支払済であるから、課税の対象とはならない。

五 以上の次第であるから、本件各更正処分等は、違法であり、取消を免れない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一、二、第二号証ないし第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、ないし三、第八号証の一、二、第一九号証ないし第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証ないし第二六号証、第二七号証の一ないし四、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証ないし第三二号証、第三三号証の一ないし七、第三四号証ないし第三七号証、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇号証の一ないし三、第四一号証の一ないし四、第四二、第四三号証の各一、二、第四四号証、第四五号証の一、二、第四六号証の一ないし四、第四七号証ないし第四九号証、第五〇号証の一ないし二九、第五一号証ないし第五七号証を提出

2  証人加藤豊時、同宇佐美由夫、同塚本正夫の各証言を援用

3  乙第一九号証、第二四号証の二、第四一号証、第四四号証、第四五号証の成立はいずれも否認する。第四六号証、第四七号証の一、二の成立は不知。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告ら

1  乙第一号証ないし第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証ないし第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇号証ないし第四六号証、第四七号証の一、二を提出

2  証人井上昇、同渡辺隆夫の各証言を援用

3  甲第二一号証、第二五号証、第二六号証、第二九号証の二、第三〇号証、第三二号証、第三三号証の一、二、六、七、第三四号証、第三八号証の二、第三九号証、第四〇号証の二、三、第四一号証の三、第四二号証の一、第四五号証の一、二、第四六号証の一ないし四、第五一号証ないし第五五号証の成立はいずれも不知。第一五号証の一の裏面記載部分の成立は不知、同号証の一のその余の部分の成立及びその余の甲号各証の成立は認める。

理由

第一  先ず職権を以って、原告の本訴請求中被告国に対する国家賠償法第一条第一項に基づく一〇〇万円の慰藉料請求部分が行訴法第一六条、第一三条所定の関連請求に当るや否やにつき審按するに、原告主張にかかる昭和税務署係官市川の守秘義務違反の所為とは、原告主張の(イ)(ロ)の各物件の交換契約の当事者である宇佐美の譲渡所得に対する税務調査における過程においてなされたものであることは、原告の自認するところであり、原告の慰藉料請求が市川の右所為のみを理由とするものであれば、右請求は、被告ら主張のとおり関連請求に当たらないことは明らかである。

しかし、原告の慰藉料請求の請求原因を、その主張自体に即して仔細に見れば、原告は、市川の前記所為の外に、昭和税務署係官市川、竹内、名古屋国税局係官川合、井上らは、原告が市川の前記所為を以って守秘義務に違反する所為なりと抗議したことに対する報復ないし、本件更正処分等の正当化の目的を以って、ことさら、不法にも、原告の取引先に対し、資料の提供を強要したり、原告との間の取引内容を捏造させたりしたと主張し、右市川外数名の前記所為は、公務員の不法行為であるとなし、そのため、原告の信用が毀損されたと主張していることが明らかであるから原告は、本件更正処分等に関与した前記公務員の不法行為をも慰藉料請求の請求原因に含め、かつ、右不法行為は、本件更正処分の違法事由となる旨併せ主張していると認められるから本件慰藉料請求は、行訴法第一三条一号にいう「当該処分又は裁決に関連する損害賠償の請求」に該当すると解するのが相当である。

これに反する被告らの本案前の抗弁は、もとより採用できず、従って、右請求部分を本件より分離審判すべきものとは認められない。

第二本件更正処分等の経緯

本件更正処分の経緯が、原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

第三本件更正処分等の適否

一  係争各年度の不動産所得について

(一)  別表四及び附表1ないし3の不動産所得収入金額中争点項目に対する判断

(1) 成立に争いのない乙第一号証ないし第五号証、第八号証ないし第一五号証によれば、原告と訴外(有)福田商会、同横山己代子、同林宇多子、同伊藤英俊との間に被告署長主張のとおりの賃貸借契約が締結され、その主張のとおりの賃料収入を原告が得ていたこと、訴外永田及び同教会についても、同被告署長主張の期間その主張のとおりの賃料収入を得ていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(2) つぎに、訴外玉置、同秋田に対する昭和四六、七年度における保証金収入各二万円宛計八万円の所得の存否につき判断するに、成立に争いのない乙第六号証、第七号証、第一六号証、第一七号証によれば、次の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

秋田と原告との間に、昭和四五年一〇月二六日締結された建物賃貸借契約については、契約書(乙第七号証)が作成されており、右契約書には「約定月額賃料は二万二、〇〇〇円、保証金は二〇万円(無利息)、特約として、右保証金は一年経過すれば、その一割の金額を償却費として賃貸人は差し引くことができる。償却費は保証金の三割を限度とし、賃借人は、これに同意する。」趣旨の記載が存し、かつ、「本契約書を以って右保証金の預り証とする」旨の記載も存すること、玉置と原告との間の賃貸借契約は同年九月一日ごろ締結され、その旨の契約書が作成されたこと、右契約における約定月額賃料は二万円であり、契約成立時に玉置は、原告に権利金、敷金名下に二〇万円を支払っていること、右二〇万円が秋田の場合と同様な特約条項が存していたかどうかについては、賃貸借契約書を被告署長が入手できなかったため、同被告において確知していないこと、以上の事実が認められる。

以上に認定した事実によれば、玉置が原告に支払った二〇万円についても、秋田の場合と同様な特約条項が存していたと推認できる。

けだし、ほぼ秋田と同時期に同程度の月額賃料で入居した玉置が、入居時に支払った二〇万円について、秋田の場合と異る特約をしたことは考えられない。

してみると、秋田も玉置も、契約成立時から三年の間は、一年経過するごとに二〇万円の一割に当る二万円を返還を要しない金員として原告から差し引かれているものと認められ、原告は、右両名から昭和四六、七年度において各二万円宛、合計八万円収受したものというべく、これら金員は、原告の右各年度の不動産所得として算入されるべきである。

以上の説示に反する原告の主張は採用できない。

(3) 以上に認定した不動産賃貸借収入を除く、その余の収入が被告署長主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  別表三の2記載の係争各年度の必要経費

(1) 公租公課

別表五記載の(4)(8)の不動産の公租公課が昭和四七年度の必要経費として計上されること、同表記載のその余の不動産の公租公課が係争各年度の必要経費として計上されることは、原告と被告署長との間で争いがない(但し、(2)(3)の不動産については、公租公課金額の全額か一部かについては争いがある)。また、原告主張別表一〇の(4)(7)(9)の不動産の公租公課が必要経費として計上されるべきでないことは、原告の自認するところである。

よって、争点項目である原告主張にかかる別表一〇の(1)(8)の不動産の公租公課が必要計費として計上されるべきものであるかどうか、及び(5)(6)(別表五の(2)(3))の不動産の公租公課金額について判断するに、成立に争いのない乙第四二号証、第四三号証、証人渡辺隆夫の証言、右証言により成立を認めうる乙第四一号証、第四四号証によれば、次の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

別表一〇の(1)の土地及び右土地上の(8)の家屋については、本件係争各年において、賃貸の用に供されておらず、右家屋は原告の不動産取引業のための事務所及び原告自身の居住のため使用されている。

別表一〇の(5)及び(6)(別表五の(2)(3))の土地については、その合計面積中三分の一を下らない部分を原告の実兄である水野一男が無償で使用しており、右両地の三分の一の部分は不動産賃貸の用に供されていない。

なお、別表一〇の(3)(別表五の(4))の土地及び(12)の建物(別表五の(8))については、いずれも原告が昭和四七年三月一七日に所有権を取得し、その旨の登記を了したものである。

以上に認定した事実によれば、別表一〇の(1)(8)の不動産の公租公課が必要経費とならないこと、同表(5)(6)の不動産の公租公課金額中その三分の一が必要経費から除外されるべきこと、同表(3)(12)の不動産の公租公課は、昭和四七年度分の一二分の二が必要経費から除外されるべきことは明らかである。

これに反する原告の主張は採用できない。

従って、その公租公課が必要経費として計上されるべき不動産に関する被告署長の主張は、すべて正当と認められる。

そして、成立に争いのない甲第五〇号証の三ないし六、一〇、一一、一七ないし二九により認められる別表五の(1)ないし(11)の物件に対する課税標準額(建物については評価額)を基礎とすれば、その公租公課金額は、被告主張別表一二の(一)ないし(三)のとおりであることが明らかである。

(2) 減価償却費

減価償却費計上の対象となる家屋、その耐用年数等につき判断するに、前掲乙第四四号証、証人渡辺隆夫の証言、右証言により成立を認めうる乙第四五号証によれば次の事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

別表一〇の(13)(別表五の(9))の家屋は昭和二一年、同表の(14)(別表五の(10))の家屋は大正七年、同表の(15)(別表五の(11))の家屋は大正一二年にそれぞれ建築されたもので、いずれも法定耐用年数の二四年を経過している。

同表の(10)(11)(16)(別表五の(5)(6)(7))の家屋の建築年月日は、被告署長主張のとおり昭和三〇年ないし同三二年である。

また、同表の(12)(別表五の(8))の家屋は昭和二一年に建築され、すでに法定耐用年数である二四年を経過した後に、前記のとおり、昭和四七年三月一七日に原告が取得したものである。

以上に認定した事実によれば、減価償却費計上の対象となる家屋は、別表六の(5)ないし(8)の家屋であること、その耐用年数及び定額法による償却率は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令及び国税庁通達(乙第四六号証、第四七号証の一、二)により、同表記載のとおりであることが明らかである。

そして、前掲乙第四四、四五号証によれば、これら家屋の取得価額の認定につき、被告署長は、区役所備付の家屋台帳記載の評価額によったことが認められ、右価格に前掲省令別表第一一の残存割合表所定の百分の一〇を減じた償却の基礎となる価格は、別表六の該当欄記載のとおりである。

してみると、減価償却費の明細は、同表記載のとおりであり、同表は正当と認められる。

以上の説示に反する原告の主張は、採用できない。

(3) 原告主張の再建築及び消耗維持予蓄費税法上右のような費目を必要経費として認める規定は存しないから、原告の主張は、主張自体失当である。

(4) 原告主張の昭和四七年度における訴外林宇多子に対する訴訟費用等

本件全証拠によるも、原告がその主張にかかる金員を支出したとは認められない。のみならず、仮りに、原告がその主張にかかる金員を支出したとしても、所得税法三七条一項にいう必要経費に該当しないから、原告の右主張も採用できない。

(三)  以上の次第であるから、原告の係争各年度における不動産所得は、被告署長主張の別表三のとおりとなる。

二  係争各年度の営業所得について

(昭和四五年分)

(一) 別表七(昭和四五年分営業所得金概計算明細表)は、同表1の(1)記載の物件の売上金額及び同表2の(7)(同表1の(5)の物件に対応するもの)記載の売上原価を除き、原告と被告署長の間で争いがない。

(二) そこで、右(1)の物件の売上金額につき判断するに、成立に争いのない乙第二〇号証、第二一号証、証人加藤豊時の証言によれば、原告は、その所有にかかる(1)の物件を、訴外加藤の仲介により、訴外竹中一、同松岡文子に坪当り四万三、〇〇〇円、代金合計四七三万円で売渡し、右代金を受領したこと、そのとき作成された売買契約書の売主欄は、仲介人である訴外加藤名義となっているが、これは便宜形式上のもので、真実の売主は原告であること、以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する証人加藤豊時の証言部分はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

従って、(1)の物件の売上金額は被告主張のとおり四七三万円を正当と認める。

右説示に反する原告の主張は採用できない(なお、証人加藤豊時の証言中には、「訴外加藤は、右物件の売却代金中五五万円を仲介料として原告から受領した」旨の供述部分が存し、右供述にそう領収書(甲第二一号証)も存するが、売却代金の一割をこえる高額な仲介手数料が真実支払われたかどうかの点は、右証人の供述自体、一貫性を欠き、たやすく信用できない)。

(三) つぎに、同表2の(7)(1の(5))の物件の売上原価につき判断するに、成立に争いのない乙第二二号証、証人井上昇の証言によれば、右物件は、元訴外辻村明子の所有であったこと、原告は、右物件を右訴外人から訴外加藤、同森らの仲介により代金四〇〇万円で買受け、その旨の契約書が作成されたこと、右売買契約締結については、訴外辻村英吉が売主側の代理人として関与していたこと、以上の事実が認められる。

原告の主張にそう証人加藤豊時の証言、甲第一号証の二、乙第一九号証(いずれも買入物件と題する書面)、甲第二五号証(売買契約証と題する書面)の記載部分は、たやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない(右甲第二五号証は、売主代理人辻村英吉が買主代理人原告宛に作成した体裁の書面であり、買主本人である原告を、ことさら代理人として表示した理由が不明である((この点に関する右加藤証人の証言部分は極めて不明瞭である))ことに加えて、契約条項も前記契約書と相違する箇所があり、その成立の真正ないし信用性については強い疑念を抱かざるをえない)。

(四) 従って、同年度の原告の営業所得金額は、別表七の被告署長主張額のとおりとなる。

(昭和四六年分)

(一) 別表八(昭和四六年分営業所得金額計算明細表)中1の(1)(3)、2、3の(8)、4の(11)ないし(13)、6は被告署長主張のとおりであることは、原告と同被告の間で争いはなく、同表1の(2)の物件の売上金額が被告署長主張の七一万円を下らないことは、原告の自認するところである。

(二) よって、争点項目である同表3の売買差益中(7)(9)、同表4の売買手数料中(10)、同表5の支払手数料について判断する。

(ア) 売買差益について

原告と被告署長間に争いのない前記売上金額及び売上原価を差引計算すれば、別表八の3中被告署長主張額のとおりとなる。

原告は、売買差益の算出については、支払手数料も控除すべきである旨主張するが、支払手数料は同表5の支払手数料欄の項目のところで判断されるべきであるから、原告の右主張は、主張自体失当である。

(イ) 売買手数料収入

原告が、訴外名豊トヨペットサービスから金額一〇万円の小切手を受領し、これを現金化したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三三号証の三ないし五、乙第二七号証、証人加藤豊時の証言、右証言により成立を認めうる甲第三三号証の一、二、六、七によれば、原告が、昭和四四年九月ごろ同社に対し、名古屋市昭和区天白町大字平針字高瀬木三五六番、田、一、一一七平方メートルを売却した際、原告が登記簿上の所有名義人訴外小池から預託された右土地の不動産売渡証書(権利証)、登記申請委任状、印鑑証明書等の登記関係書類を同社に交付していたところ、後日に至り、同社が、これら書類を紛失し、その再作成及び右土地の農地転用許可申請手続ないし所有権移転登記手続を原告に依頼して来たので、原告は、原告前主訴外小池に対するこれら書類の再作成の要請ないし再作成された書類に基づく農地転用許可申請手続ないし所有権移転登記手続等の一切を訴外加藤に委任し、その費用として同社に対し、一〇万円を請求し、同社は右請求に応じ、前記一〇万円の小切手を原告に交付し、原告は、これを現金化し、その金額を訴外加藤に支払い、訴外加藤において、これら諸手続をなしたこと、以上の事実が認められ、右事実によれば、右一〇万円は、手数料ではなく、登記手続費用と解されるから、原告の手数料収入として計上することはできないものと認められる。

もっとも、前掲乙第二七号証によれば、訴外名豊トヨペットサービスは、前記小切手の振出原因を支払手数料勘定に計上していることが認められるが、右事実は前記認定を左右するに足りる証拠とはなし難く、他に右認定に反する証拠はない。

従って、別表八の4の(10)記載の被告署長主張額一〇万円は誤りというべきである。

(ウ) 支払手数料

成立に争いのない乙第二八号証により認められる前記(イ)記載の名古屋市昭和区天白町大字平針所在土地の原告前主訴外小池が訴外加藤から受領した一万円は、前記(イ)認定の事実によれば、原告が訴外名豊トヨペットサービスから登記手続費用として受領し、訴外加藤に交付した一〇万円の中から支払われたものと認められるから、原告の支払手数料として計上すべきものではないというべきである。

そして、成立に争いのない甲第二九号証の一、第三一号証、証人加藤豊時の証言、右証言により成立を認めうる甲第二九号証の二、第三〇号証、第三二号証、第三四号証によれば、原告は訴外加藤に対し、名古屋市昭和区天白町大字平針字長田一、〇〇〇番の六、七の土地の仲介手数料として、昭和四六年一〇月一六日に一〇万円、同年一一月一一日に六万五、〇〇〇円を、同市千種区吹上本町三丁目六三番外の土地建物の仲介手数料として同年七月五日四万五、〇〇〇円をそれぞれ支払ったことが認められ、これに反する証拠はない。

従って、支払手数料は、原告主張の二一万円ということになるから、別表八の5の支払手数料は二一万円というべきである。

(三) してみると、別表八の営業所得金額は、差引計算すると被告署長主張額より三〇万円減じた一四万一、〇〇二円が正当と認められる。

(昭和四七年分)

(一) 別表九(昭和四七年分営業所得金額計算明細表)のうち、5の(11)ないし(15)(17)(19)(20)及び6.7を除いてその余は、原告と被告署長間で争いがない。

(二) よって、争点項目である同表5の必要経費中(11)ないし(15)(17)(19)(20)及び同表6の事業専従者控除額について判断する。

(ア) 電気料金、上下水道料金、電話料金の原告支出額が原告申告額のとおりであることは、原告と被告署長間に争いがなく、成立に争いのない乙第三二号証によれば、原告のガス料金支出額は四万六、一五九円であることが認められる。

ところで、原告のこれら支出額がすべて事業の用に供されたと認めるに足りる証拠は存しないから、被告署長主張の家事関連費に該当するものと解する外はないところ、被告署長は、成立に争いのない乙第三五号証(昭和四七年度家計調査年報)により認められる「昭和四七年度の一世帯当り年間の品目別支出金額(大都市欄)」の数値の範囲で原告の家事上の経費と認めることとし、これを差引いた被告署長主張金額を以って必要経費と認定したというのであるから、右認定は合理性を有するものというべきであり、同被告主張金額を正当と認める。

(イ) 自動車燃料費

被告署長主張の三万六二八〇円をこえる原告主張額については、これを認めるに足りる証拠はないから、同被告主張額を正当と認める。

(ウ) 贈答額

原告主張の一二万五〇〇〇円が必要経費に計上されるべき贈答費として支出されたと認めるに足りる証拠は存しないから、贈答費を認めなかった被告署長の認定は、もとより正当である。

(エ) 減価償却費

成立に争いのない乙第三六、第三七号証によれば、原告が、昭和四七年度において事業の用に供した減価償却資産、その取得年月日、取得価格は、被告署長主張のとおりであることが認められ、右事実を基礎にしてその償却費を計算すると次のとおりとなるから、被告署長主張額を正当と認める。

小型乗用車(四三年式カローラ・二ドアスタンダード)取得価格三五万五〇〇〇円残存価額の残存割合は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇・三・三一大蔵省令第一五号)第五条別表第一一により百分の一〇であるから、残存価額は三万五五〇〇円となる。

耐用年数は、同省令第一条別表第一(昭和四八年三月三一日大蔵省令第三二号改正前のもの)により、六年であり、償却率は同省令第四条別表第一〇により〇・一六六となる。

従って、減価償却費は(355,000円-35,500円)×0.166=53,037円

複写機(取得価額三二万円)残存価額は三万二〇〇〇円となる。

耐用年数は五年であり、償却率は〇・二〇〇となる。

従って、減価償却費は、(320,000円-32,000円)×0.200=57,600円

計算機(取得価額五万円)残存価額は五〇〇〇円となる。

耐用年数は五年であり、償却率は〇・二〇〇となる。

従って、原価償却費は、(50,000円-5,000)×0.200=9,000円

クーラー(取得価額八万円)残存価額は八〇〇〇円となる。

耐用年数は六年であり、償却率は〇・一六六となる。

従って、減価償却費は、(80,000円-8,000円)×0.166=11,952円

(オ) 調査費

必要経費として支出されたこと当事者間に争いない事務費一八万〇八〇五円の外に、原告が調査費を支出したことを認めるに足りる証拠は存しないから、調査費を認めなかった被告署長の認定は正当である。

(カ) 事業専従者控除額

原告の妻につき事業専従者控除を適用できないことは、原告の自認するところであり、原告主張の臨時雇について、原告が臨時雇を雇用したこと、ないし右臨時雇につき事業専従者控除申立をしたと認めるに足りる証拠は存しないから、事業専従者控除を認めなかった被告署長の認定は正当である。

(三) 台風による被害額および応急復旧費

原告の主張にそう成立に争いのない甲第一四号証は、成立に争いのない乙第三八号証ないし第四〇号証と対比し、たやすく信用し難く、証人塚本正夫の証言、右証言により成立を認めうる甲第四六号証の一ないし四、第五二号証により認められる原告が原告所有家屋の修繕費を支出した事実の一事を以ってそれが昭和四七年に生じた台風に起因するものとは即断できず、他に、原告主張を認めるに足りる証拠は存しないから、被告署長が、台風による被告額等を認めず原告が昭和四七年度において雑損控除額として申告した四八万二四一〇円を認めなかった被告署長の認定は正当である。

三  昭和四六年分の利子所得金額

別表一三のとおり原告に二万八九二一円の利子所得があったこと、その源泉徴収税額が四三三六円であることは原告と被告署長の間で争いがない。

そして、所得税法第二二条によれば、利子所得は、課税標準たる総所得金額に算入されるべきものである。これに反する原告の主張は、もとより採用できない。

四  以上の次第であるから、係争各年度の原告の総所得金額は、被告署長主張のとおり(但し、昭和四六年分の総所得金額は、被告署長主張額より三〇万円を減じた二〇四万二七七四円)となるから、右各金額の範囲内でなされた本件各更正処分等は、もとより適法というべきである。

なお、所得控除額は、昭和四七年分の雑損控除額を除いて原告と被告署長との間で争いがなく、前記のとおり、同年度の雑損控除を認めなかった被告署長の認定は正当である。

これに反する原告の主張は、採用できない。

第四損害賠償請求の当否について

一  本件更正処分等が適法である以上、右処分等が違法であることを前提とする原告の国家賠償法に基づく三〇万円の請求は理由がないことは多言を要しない。

二(一)  昭和税務署係官の守秘義務違反の所為(所得税二四三条)の存否

先に説示したとおり、右所為に基づく原告の主張部分は関連請求に当らないけれども、原告は、後記(二)の主張とも併せて一〇〇万円の慰藉料請求をなしているため、原告の右主張部分の当否についても判断する。

証人加藤豊時、同宇佐美由夫の各証言、右宇佐美証人の証言により成立を認めうる甲第二六号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第一五号証の一及び弁論の全趣旨によれば、昭和四五年一〇月ごろ、原告と宇佐美との間で、原告所有にかかる(イ)の物件と宇佐美所有にかかる(ロ)の物件の交換契約がなされたこと、訴外宇佐美は、(ロ)の物件につきなされた譲渡所得の確定申告につき、昭和税税署係官から、(ロ)の物件の適正時価は、(ロ)の物件の取引実例からして五四〇万円が相当である旨告げられ、、修正申告の指導を受けたことが認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

そして、右修正申告の指導につき、昭和税務署係官が右適正時価認定の資料である(ロ)の物件の取引実例とは、原告が(ロ)の物件を他に売却した価格であることを宇佐美に告知したと認めるに足りる証拠は存しない。

してみれば、昭和税務署係官に原告主張のような守秘義務違反の所為があったとは認められない。

(二)  昭和税務署係官らに、原告に対する報復的意図ないし本件更正処分等の正当化の意図を以って原告の取引関係者に対し、原告主張のような強要行為があったか否かについて。

本件全証拠によるも、昭和税務署係官に原告主張のような所為があったとは認められず、原告の主張にそう甲第一六号証の記載部分はたやすく信用し難い。

してみれば、原告の一〇〇万円の慰藉料請求も、理由がないこと明らかである。

第五  以上の次第であるから、原告の本件各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官 原田卓)

別表一 課税処分表

〈省略〉

別表二 所得税額等計算表

〈省略〉

別表三

不動産所得の金額計算表

〈省略〉

別表四

不動産所得の収入金額明細表

〈省略〉

(別表四の附表1)

昭和45年分月別賃貸料収入明細表

〈省略〉

(別表四の附表2)

昭和46年分月別賃貸料収入明細表

〈省略〉

備考 ※印は返還を要しなくなった保証金等の収入である。

四 200,000円の10%20,000円

五 200,000円の10%20,000円

(別表四の附表3)

昭和47年分月別賃貸料収入明細表

〈省略〉

備考 ※印は返還を要しなくなった保証金等の収入である。

四 200,000円の10%20,000円

五 200,000円の10%20,000円

別表五

公租公課明細表

〈省略〉

別表六

減価償却費計算明細表

〈省略〉

(注) 本表の番号は、別表五の番号の建物を示すものとなる。

別表七

昭和45年分営業所得金額計算明細表

〈省略〉

別表八

昭和46年分営業所得金額計算明細表

〈省略〉

別表九

昭和47年分営業所得金額計算明細表

〈省略〉

別表一〇

(1) 名古屋市昭和区曙町三丁目五番の一

宅地 一八〇・七六平方メートル

(2) 名古屋市昭和区雪見町三丁目五番の三(別表五の1)

宅地(登録地目 畑)

七九六平方メートル

(3) 名古屋市千種区末盛通四丁目七番(別表五の4)

宅地 一七〇・三一平方メートル

(4) 名古屋市千種区内山町一丁目九六番の一

宅地 一七一・九〇平方メートル

(5) 名古屋市千種区春岡通七丁目六九番の二(別表五の2)

宅地 八九・三五平方メートル

(6) 名古屋市千種区春岡通七丁目六九番(別表五の3)

宅地 一二四一・三五平方メートル

(7) 名古屋市天白区天白町大字平針字平池下二二八七番の三

宅地 三二三・九六平方メートル

(8) 名古屋市昭和区曙町三丁目五番地一

家屋番号六番、二階建

床面積 一四一・一五平方メートル

(9) 同所同番号

家屋番号なし(補充)、二階建

床面積 三九・六六平方メートル

(10) 名古屋市昭和区雪見町三丁目五番地(別表五の5)

家屋番号なし(補充)、二階建

床面積 一四二・一四平方メートル

(11) 名古屋市昭和区雪見町三丁目五番地三(別表五の6)

家屋番号五-九、二階建

床面積 一九六・〇九平方メートル

(12) 名古屋市千種区末盛通四丁目七番地(別表五の8)

家屋番号四番、平家建

床面積 七四・七一平方メートル

(13) 名古屋市千種区春岡通七丁目六九番地二(別表五の9)

家屋番号四七-二、平家建

床面積 四六・二八平方メートル

(14) 名古屋市千種区春岡通七丁目六九番地(別表五の10)

家屋番号五〇、平家建

床面積 一六七・九三平方メートル

(15) 同所同番地(別表五の11)

家屋番号四七、平家建

床面積 一三八・五一平方メートル

(16) 同所同番地(別表五の7)

家屋番号なし(補充)、二階建

床面積 七七・三五平方メートル

別表一一

建物の総床面積の明細

〈省略〉

物件の番号は別表一〇の番号と対応するものである。

別表一二の(一) 昭和46年分公租公課明細表

〈省略〉

別表一二の(二) 昭和45年分公租公課明細表

〈省略〉

別表一二の(三) 昭和47年分公租公課明細表

〈省略〉

別表一三

昭和46年分利子所得明細表

〈省略〉

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